〓どこにでもある日常の風景の一つだった ...その、生も死も、出来事も。〓 |
『望んだ明日/望まざる明日』 (2004/1/1/Thursday) |
『ぷるるるる〜!!!!!!!!!!』 電車が発車の合図を告げる音を 彼が耳にするのは久しぶりの事だった。 何時もなら、その場所へと 車で移動していたからだ。 そもそも彼が電車に乗る事になった 切っ掛けは車の故障にあった 前々日から休日で、その前日 帰り際の際、車へ異常が起きたのだ。 車の故障は簡単な物ではあったが 素人が手を出すわけにもいかず 後日、修理へ出す事とした。 彼は久しぶりに満員電車、と言う 感覚を思い出してた。 密着し息苦しい車内では、他人の口臭や 体臭、化粧の香りが入り交じり なんとも言えないソレが鼻についた。 懐かしい感覚ではあったが、正直 これを毎日経験しようとは思わない、と ぼやき、彼は窓の外へ目線を動かした。 揺れる車内、一駅ごと乗り降りする度 入れ替わり立ち代わる人々の波。 目的の駅までは、まだまだこの 地獄の密室を過ごさなければならなかった。 『ガタンッ!ゴトンッ!!ガタンッ!ゴトンッッ!!』 規則せいのある線路の上を走る 車輪の音と揺れが暫く続き、彼の目的は もう直ぐ車内アナウンスによって 達成されようとしていた。 あと一駅、吊り皮を掴む腕が少し 痺れを感じていた時だった、背後から 女性の声が聴こえた。 「何するんですか止めて下さい!!」 何だ?痴漢か??? そう彼は思いながら興味はあったが 先を急いでいた為、敢えて 振り返らず、この密室からの解放を願っていた。 「貴方ですよ!貴方に言っているんです!!」 突然だった、彼の片腕が 物凄い勢いで、声の主の方向へと 引っ張られたのだ。 「何ですか?」 キョトンとする彼は、まだ 自分が置かれた状況が飲み込めずにいた。 「しらばっくれないで!! 私のお尻をスカートの上から触ったでしょう!?!」 どうやら彼女は自分が痴漢をしたと 勘違いしているのだけは理解出来た。 「いぇ、無理ですよ。 私は後ろを向いていましたし、斜め後ろの 貴方に手が届く筈なんてないでしょう?」 正論を主張する彼だったが、これを聞き 捕んだ腕へ更なる力を加え女性は 興奮気味で言い放った。 「とにかく!次の駅で降りて貰いますからね!! しらばっくれたって、駄目よ 警察に突き出してやるんだから!!!」っと。 無理矢理、電車から引きずり下ろされた彼は 「あの、言いがかりはよして頂けませんか?」 っと、丁重に断りを入れる。 「すいません!!!この人、痴漢です!」 だが、彼女はそれを許さず駅員を呼び止めた。 「ど、どうなさいましたか!?!」 数名の駅員が両者の下へ駆けつけ 事情を聞き出そうとする。 「この人に、今..電車の中でお尻 ...触られたんです!!!!」 大声で喚く彼女の声で大衆も事態へと 気付き始め、ラッシュ時間でも あった事で野次馬がざわめき出していた。 「あの、私...急いでいるんですが? それに先に説明したでしょ、貴方の身体に なんて触れてませんよ、すぐに証明出来ます。」 ともかく、この場は離れて!っと言う 駅員へ連れられ彼らは移動を開始した。 駅員室では身振り手振りを交えて、女性が 悲痛な叫びを訴えていた。 「まぁまぁ落ち着いて。」 多分、誰の声も届いていないだろうと 場の一同が思っていた。 はっ!と気付いた様に腕時計を 彼は眺め急ぎの用件がある事、このままでは 間に合わなくなる、っと訴えるが 「逃げるなんて許さない!!」 彼女がソレを許さない、が、しかし 「..................逃げる?」 朝の満員電車での苛立ちもあったのだろう 冷静を装っていた彼の顔が 次第に高揚し、赤く染まって行った。 向かい合う様に座っていた 座席から彼は一旦、下を向いた後 「いい加減にしろよ?この糞女。」 顔を上げ彼女へ目線を合わせ、睨み付けながら 最初の一言を呟いた。 「え?」 一番戸惑っていたのは、この女性だった。 「誰が、好き好んで...てめぇみてぇな 糞不細工のケツなんぞ ...触りてぇと思うんだよ...ぼけェッッ!!」 畳み掛けるかのごとく、彼の言葉は まるでマシンガンの様に彼女の心を打ち続く!! 「大体なぁ、てめぇの身体なんかじゃぁ 勃つもんも勃たねぇよッ!!!!! 解るか?勃起すらしねーってんだよ!!このアマ!」 彼の言葉受けて、彼女は呆然としたまま 涙を流し力無く崩れ落ちた。 「あっ..あっあっ...。 ご免なさい、御免なさい...私...私....。」 謝り続ける女の様子等、気にかける事も無く 彼は背広の乱れを直しながら 駅員室をさっさと出て行ってしまった。 何も言葉を失くしたのは彼女だけは なかった、相席していた駅員3名も ただ気迫へ負けて呆然自失状態になっていた。 『ぷるるるる〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!』 笑みを浮かべながら、丁度発車まで 間もなくであった電車へと彼は乗り込み 何事もなかったのような、すっきりとした顔で 笑みを浮かべて場を後にした。 それから数十秒の差があって、反対側の電車 {2番線、電車が参ります、白線の内側まで下がってお待ち下さい。} 到着の駅内アナウンスが響き終わった、すると この直後だった 『ドッッ!!!!ぐしゃぁぁぁっぁぁっっ!!!!!!』 まるで、巨大な水風船を破裂させた様な 鈍い音と、その前に緩い激突音が鳴り響いたのだ。 「いやぁ、凄かったですなぁ、あの剣幕!」 「久々に圧巻でしたなぁ...まぁ、お嬢ちゃんも 今回のこんな事は忘れちまいなさいよ?...ん??」 「...あれ?で、あの子は何処行った?」 駅員達が部屋を見回しても、彼女の姿は 何処にも見あたらなかった。 「おぃ!!今、飛び降り自殺があったぞーーーっ!!!!」 「おっ俺、生で見ちまったよ!!!」 「うっ...気持ち悪い...。」 騒ぎを聴きつけ駆け寄る人々、そして線路の下には....。 |